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バベルの塔または火星での生活 このページをアンテナに追加 RSSフィード



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オリジナル・ラブに特化したブログです。最新情報から個人的な雑感まで。
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2007/10/18(木)

 その10『街男 街女』

|  その10『街男 街女』 - バベルの塔または火星での生活 を含むブックマーク  その10『街男 街女』 - バベルの塔または火星での生活 のブックマークコメント

全アルバムを改めて聴きなおす「マイレヴュー」シリーズの10回目。

なにかに急かされるかのように、連続のエントリです。って、急かされています。来週にはEMI時代アルバムの再発売。それまでに、他のアルバムは済ませてしまおうという寸法。

これでソロ時代は一段落。次からやっとバンド時代の話ができる!

マイレヴュー目次

おことわり

オリジナル・ラヴ マイランキングの各アルバム版です。アルバム全体印象は、そちらを参照してください。

実際に曲を聴きながら、思い出すことを思うままに書いています。そして、「今、この時点で、自分にどう聴こえるか」ということを主眼にして書いています。昔話が多いのは、曲にまつわっているイメージをそのまま書いているからであって、各曲の解説のつもりなのではありません。したがって、いちいち裏を取る作業は省略していますので、信憑性を少しは疑ってください。…と久々に紋切り型を書いたのは、今回は気楽にダラダラと書いている証拠です。また無駄に長いので、お暇なときにどうぞ。

街男 街女

街男 街女


1.築地オーライ

築地といえば、『風の歌を聴け』なのである。といっても何のことだかサッパリだろうから説明すれば、『風の歌』がリリースされた1994年の夏の3ヶ月、勤め先が築地で、通勤のBGMは『風の歌』だったのだ。今年にも負けないほどの猛暑で、うだるような暑さの中で行きも帰りも休み時間も狂ったように聴いていた。1994年8月3日、東京が観測史上最高(当時)の39.1度を記録した日の昼休みも、食休みに隅田川まで出て、涼しくない川風にあたりながら「The Rover」を聴いていたのを覚えている。その他にも、市場のすぐ脇にある崩れそうなバラック小屋なのにやたらおいしい天ぷら屋に行ったりとか、ランチから豪勢に市場内の寿司屋に入って大好きなアナゴを頬張ったりとか、花火大会を見に行ったりとか、好きなヒトに告白したり(その人は今奥さんになっています)とか、個人的にはなにかと思い出の多い土地。

そんな築地に田島から「オーライ!」と言われればダメと言えるわけもない。2004年の「VINTAGE SONG」ツアーで、「東京ブギウギ」や「買い物ブギ」をカヴァーしていたものがそのまま出た1曲。歌謡曲趣味ここに極まれり。こんな曲までもが「オリジナル・ラヴ」の一曲であるという事実は、田島の暴走を食い止める手段がないとネガティヴに受け止めるよりも、楽曲の幅の広さをポジティヴに受け入れようではないか。

そういえば1995年、大阪の演歌の殿堂「飛天」(現・梅田芸術劇場)でライヴをやったことがあったが、そのときにこんな曲があったら盛り上がったろうな(実際には『RAINBOW RACE』のときなので、Dr.KYONが大活躍の別の意味で渋いステージでした)。


2.銀ジャケットの街男

エアロスミスのスティーヴン・タイラーは、ある曲をライヴで歌うとき「なんでこんなキーの高い曲を作っちまったんだ」と必ず後悔するのだそうだ。田島もこの曲のときは、そう思って歌っているのではないだろうか(笑)。

ガナリ声で、ひしゃげる寸前のヴォーカル。オーヴァーダビングなどの手が入っていないのは聴くだに明らかで、「一発録り」の最終形とでもいうべき、ギリギリの歌唱だ。

思えば昔のアルバムではこのような曲は、どちらかというと「色モノ」的な扱いで、クールな田島くんも実はこんな一面を持っているんですよーとばかり、アルバムの片隅でひっそりと異彩を放っていたものだった。『LOVE! LOVE! & LOVE!』の「LOVE SONG」しかり、『結晶』の「愛のサーキット」しかり。それがここではどうだろう、アルバムの2曲目を飾り、しかもアルバムの実質的タイトル曲だ。

田島は変わったのだろうか? いや、むしろこのトチ狂った田島の方が田島の本質であって、それが表に出てきたにすぎないと見るべきだろう。「ほぼ日」では田島の奇行ぶりが評判になっているが(とくにオリジナル・ラヴを「接吻」のようなイメージで見ていたような向きからは)、しかし、あのハジケっぷりこそまさに田島その人であろう。

そういえば。自分がどうしてこんなにオリジナル・ラヴが好きになったのかといえば、水の染み入る隙さえもない完璧な『風の歌を聴け』というアルバムを完成させたミュージシャンのライヴに行ってみたら、アルバムの端整さからはかけ離れたあまりのハチャメチャぶりに大爆笑したのがキッカケだった。

結局、かつての田島は、その破天荒さをアルバムで発揮する術を持っていなかっただけだったのだ。ライヴ感をアルバム上に出す手段を、田島は「一発録音」という方法で得ることができた。はじめてそれをやったのが、スタジオライヴ盤の『XL』。オリジナルアルバムの中でその手法が成功したのが『ビッグクランチ』。『ムーンストーン』以降もその流れは続いて、『踊る太陽』の「ふられた気持ち」でひとつの完成形を見せたかと思えば、この曲ではさらに突き抜けたところまで行ってしまった、というわけだ。

次作の『東京 飛行』でヴォーカルスタイルが「落ち着き」を取り戻しているあたりからも、この曲がひとつの臨界点だったと見ていいのだろう。


3.沈黙の薔薇

で、一転してクールなオリジナル・ラヴ。さっきのような書き方をすれば、かつてはメインの位置づけだったはずの、この曲のようなムーディな曲は、いまやアルバムの「色モノ」のような存在になってしまった。こんなふうに図と地が完全に入れ替わってしまっては、それはファンも付いてくるのが大変だろう。ただ、今でもファンであり続けている人は、こんなクールな曲を田島に期待していることはないのではないか。「こういう曲だけでアルバムを作ってくれたら」という願いが、いかに絶望的なものであるということも気づいているだろう。

沈黙の薔薇(初回)(DVD付)

沈黙の薔薇(初回)(DVD付)

先行シングル。発売直後のライヴのタイトルにもなった。

http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20040724/p1

http://ent2.excite.co.jp/music/interview/2004/originallove/01.html

上記リンク先でも、『ムーンストーン』のときのように、「ダメな歌」を「ブルース」と表現している。また、これも「一発録り」である。シングルとは歌が差し替えられている。ただし、シングルはずっと低音のユニゾンがあって、それがかっこいい。個人的にはシングル版の方が好み。この曲がシングルになったのは、「なんかいいかと思って」という、それほど深くない理由。

当時、「M-ON!カウントダウン」で56位だったそうだ。

http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20040723/p4

4.死の誘惑のブルース

この曲は、あまり好きな曲ではなかった。2003年のライヴで「網走番外地」をカヴァーしていたから、「東京の番外地」というフレーズにワザトラシサを感じたし、淡々としたメロディラインに歌い方も、どこに聴き所を求めたらいいのだろうかよくわからなかった。

それが、バラくまさんの日記だと思ったが*1、「この曲は『東電OL殺人事件』を連想させる」というのを読んで以来、なるほどと印象が変わった。都会の真ん中のブラックスポット。孤独感と虚無感がないまぜになった空間が、普通の日常生活のすぐ隣に存在しているその怖さ。田島の歌い方がどこかニヒルなのも、それならばなんだかわかる気がするのだ。

このアルバムは、「街」すなわち「都市」のアルバムである。「ブルース」という言葉に物事の「影」と「日向」の両方の意味を持たせる田島にとって、都市の影の部分を歌ったこの曲は、当然このアルバムになくてはならない1曲なのであった。

5.赤い街の入り口

夏目漱石の「それから」のラストシーンからインスパイアされてできた曲。無粋だが引用してしまへ。

 飯田橋へ来(き)て電車に乗(の)つた。電車は真直に走(はし)り出(だ)した。代助は車のなかで、「あゝ動(うご)く。世の中が動く」と傍(はた)の人に聞える様に云つた。彼(かれ)の頭(あたま)は電車の速力を以て回転し出(だ)した。回転するに従つて火(ひ)の様に焙(ほて)つて来(き)た。是で半日乗り続(つゞ)けたら焼き尽す事が出来るだらうと思つた。

 忽ち赤(あか)い郵便筒が眼(め)に付(つ)いた。すると其赤い色が忽ち代助の頭(あたま)の中(なか)に飛び込んで、くる/\と回転し始めた。傘屋(かさや)の看板に、赤い蝙蝠傘(かうもりがさ)を四つ重(かさ)ねて高(たか)く釣(つ)るしてあつた。傘(かさ)の色が、又代助の頭(あたま)に飛び込んで、くる/\と渦(うづ)を捲(ま)いた。四つ角(かど)に、大きい真赤な風船玉を売つてるものがあつた。電車が急に角(かど)を曲(まが)るとき、風船玉は追懸(おつかけ)て来(き)て、代助の頭(あたま)に飛び付(つ)いた。小包(こづゝみ)郵便を載(の)せた赤い車がはつと電車と摺(す)れ違ふとき、又代助の頭(あたま)の中(なか)に吸ひ込まれた。烟草屋の暖簾が赤かつた。売出しの旗も赤かつた。電柱が赤かつた。赤ペンキの看板がそれから、それへと続(つゞ)いた。仕舞には世の中が真赤(まつか)になつた。さうして、代助の頭(あたま)を中心としてくるり/\と焔(ほのほ)の息(いき)を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼け尽きる迄電車に乗つて行かうと決心した。

夏目漱石 それから(青空文庫)

歌詞がなんとなく江戸弁で、クレイジーが「くれいぢぃ」となっているのも、こうしてみるとわかるね。

江戸川乱歩の東京というか、なんだか怪人が出てきそうな雰囲気の東京の風景が浮かんでくるようで、ヒステリックな歌い方があるものの、結構好きな曲だ。


6.ひとりぼっちのアイツ

ジャケットで10リットル(100cl・センチリットル)のボトルを抱えている『街男 街女』は、酒のアルバムでもある。酔っ払いながら聞いていてこんなに気持ちのいいアルバムはない。A面(アルバム前半)の調子ハズレのヴォーカルも酩酊した頭には心地よい。

酒といえば以前、『街男 街女』酒めぐり という、われながら苦心作も書いたことがあるので、興味のある方は。

そこにも書いたが、知人の女性にこの曲にピッタリの人がいてそのイメージが離れない(この曲のモデルは、実際にはたぶん田島本人なのだろうが)。その人、田島と同じ丙午生まれ。迷信って案外本当なのかも…。(その迷信を知らない人は「丙午」を検索してください)

7.Yen

田島にしては珍しく、生活感のある身近な題材の曲。「お金の大切さを歌い上げた曲」とどこかの曲紹介にあったけど、そんなに大層な曲ではないだろう(笑)。なんでお金の曲なの?と深く考えるよりも、こんなテーマでも1曲作れてしまうんだよ、と軽く見るべきだろう。田島が楽しみながら作詞をしていった様子が目に浮かぶ。

音楽的には、アルバム中でももっともシンプルでヴァランスも取れている佳曲だと思う。中間部のアルペジオが美しい。

8.或る逃避行

『女王陛下のピチカート・ファイヴ』を髣髴とさせるような、イケイケの曲。田島にもまだこういう曲が書けるんだと、なんか嬉しかった。「高級旅館 温泉に料理」という歌詞の入るポップスが作りたかった、と田島は言っていた。

アルバム直後のツアーで「Let's Go!」とメドレーでやっていたのが忘れられない。あれは本当にかっこよかったなぁ。

9.夜の宙返り

オリジナル・ラヴはアルバムのラスト2曲に凝る。緩-急か急-緩の構成になっていて、たいていはどちらかがシングル曲になっている。そうしてアルバム全体の構成を整えているわけだ。その中でも、このアルバムのラスト2曲は、12枚目にしてもっとも感動的なものではないだろうか。(先日ベタ褒めしたばかりの『ビッグクランチ』よりも!)

まずは、意外にも当アルバム唯一のバラードの「夜の宙返り」。ピアノで作曲したと思われ、それ特有の甘いメロディライン(ex.「ショウマン」「月に静かの海」)と、「のすたるぢあ」で見せたヨナ抜きメロディが絶妙に融けあっている。

そんなメロウな曲調に乗せられて歌われる歌詞も、また切ない。どのような事情かはわからないが、離れ離れにならざるを得ない愛する者への惜別の歌。「ごめんねそばに いられなくなっちゃって」のところは、田島の泣きそうな声と相まって、聴いているこちらも涙を浮かべずにいられない。

この相手が、大人の女性ではないことは歌詞からも想像できるが、それ以上はまったくの空想になってしまうので、ここでは筆を控える。

10.鍵、イリュージョン

そしてアルバムの締めにこの曲。はじめて聴いたときから「これはタダならぬ曲」と直観が身体を貫いた。自分の中の「オリジナル・ラヴで一番好きな曲」の一角(「一番」が複数ある)を占めるのに、それほど時間はかからなかった。今でも田島貴男の最高傑作のひとつと確信している。

もう、あまりに曲が素晴らしすぎて、いつも曲を聴いているときに身体に走る感動を文章に書き留めることなんてとてもできない。「好きな曲」の一角である「水の音楽」の感動をそれなりの文章にまとめたこともあるが、それだって初聴から8年もかかっているのだ。たったの2年程度の時間で、この感動をチンケな文章にまとめることなど不可能。

しかし田島本人もこの曲を、「今歌詞にできるかわからない大きなテーマなのだが、とにかく書いてみた」というようなことを言っていた。恥知らずではあるが、その真似をしてみよう(書いてみてやっぱり上手くいかなかったが…)。

この曲で最も感動的なところは、よく引用されるこの部分なのでは「ない」と思う。

誰にも渡しちゃいけないものが君の中にあるんじゃないか
気持ちがあるなら 自分で歩いた旅の先に奇跡がある

この部分は、なにか「自分」臭い。自分が築き上げてきた大切なものに固執して離れないという印象がある。自分が王様、自分が一番、自分が大事。「MP」で自分探しの歌を嘲笑った田島が、そんな我執的なところにこの曲の主題をおくのは、なんか不自然ではないか?

やはりこの曲の「肝」は、この「最後の2行」だろう。

もっと もっと 心の中であの人のことを好きになろう
もっと もっと 涙が止まらない程 あの人を愛そう

「あの人」って誰やねん、とツッコんでいる場合ではない。田島が作詞をした時点では、たしかに特定の「あの人」がいたのだろう。しかしこれが、魂を振り絞ったかのような田島のあの「歌」として響いてきたときに、この「あの人」は、聴いている人自身の「あの人」へとスルリと入れ替わってしまう! 大切なのは「自分」なのではなく、「あの人」を愛する今の"この"気持ちなのだ。見たかこのマジック!(1991年の渋谷公会堂での田島の台詞) まさにイリュージョン。このアルバムは、「バンドはオーライ!」と歌い始めた瞬間から、この「最後の2行」に向かって突き進むのだ。

というようなことを、別の視点から書いたこともあるので、そっちも読んでやってください。最初に聴いてから1週間でここまで書いているとは、われながら大したもんかも。

http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20041105/p1


全体的な感想

聴き返してみて、とてもヴァランスのいいアルバムだと思った。『ELEVEN GRAFFITI』や『L』のように機材が前面に出ているわけでもなく、『ビッグクランチ』のように過剰な装飾がされてるわけでもなく、『ムーンストーン』のようにピアノ・サックスに偏っているわけでもなく、『踊る太陽』のようにブギーの重いギターが響いているわけでもない。ピアノもありアコースティックギターもありストリングスもありコーラスもあり、田島がこれまでのアルバムに使ってきたあらゆる要素が、どれひとつとして我を張るのでなしに、ヴァランス良くハーモニーを奏でている。「一発録り」への興味が最高潮に達したときなので歌い方に癖はあるものの、全体としてはオリジナル・ラヴの総決算と言ってもいいアルバムなのではないだろうか。

…と思うからこそ、この作品の余韻を引きずった『東京 飛行』がなんだか気に食わないのかもしれない。もうこっち方向でやることは何もないだろう?みたいな。あ、なんだか最近、最後は必ず最新作批判だね。

*1:バラくまさんの日記は最近突如消えてしまってしまった。お元気ですかー?

2007/10/10(水)

 その9『ムーンストーン』

|  その9『ムーンストーン』 - バベルの塔または火星での生活 を含むブックマーク  その9『ムーンストーン』 - バベルの塔または火星での生活 のブックマークコメント

全アルバムを改めて聴きなおす「マイレヴュー」シリーズの9回目は『ムーンストーン』です。

ムーンストーン

ムーンストーン

わりとヴォリュームがあるので、暇なときに読んでやってください。

アルバム発売まで

ビッグクランチ』とこのアルバムの間は1年半も開いた。2001年の頭から曲作りは始まっていたが、結局2001年は空白の1年となるのである。ベストアルバムさえも出さなかった年は、91年のメジャーデビュー以降はじめてである。(そして今年2007年は2度目の空白の年となりそうである)

この時期、事務所(Wonderful World)ごと引越しをしたらしい。OFFICIAL WEBからグッズ販売がゴッソリとなくなったのもこのとき。昔はインディーズ盤以外にもTシャツとかいろいろ売っていたのに。引越ししたてのプライヴェートスタジオは『サウンドデザイナー』2002年3月号で特集されていた。

2001年のライヴはわずかに3公演。2001年8月24・25・28日に行われた「トライアル・セッション」と銘打たれたものだけだった。ここでは「ビッグクランチ」ツアーから一転、アコースティック中心のライヴとなった。しかも驚くべきことに、田島はほぼ全編でピアノを弾いていた。このツアーのアレンジが、ほぼそのままアルバムに反映されることになる。ベースの鹿島達也はこのライヴが初参加で、そのままアルバム収録にも参加していく。『ムーンストーン』の製作は、このときのメンバー6人そのままで行われた。

  • ピアノ、打ち込み、ガットギター、歌:田島貴男
  • エレキギター、スルド:木暮晋也
  • ドラム:平井直樹
  • ベース:鹿島達也
  • レコードプレーヤ:L?K?O
  • サックスと鉄琴:松本健一

(「アダルト・オンリー」にのみ、パーカッションの三沢またろうが参加している)

田島がエレキギターを弾かないのは、このアルバムだけ。バンドの一体感が強いアルバムだが、編曲も「田島貴男」ではなくて「オリジナル・ラヴ」となっているのがその証左だ。

2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが起こる。この影響で、歌詞は大幅に書き換えられることになった。2001年中にアルバムが出なかったのは、このためだったと思われる。

一方で2001年は、他ミュージシャンとの仕事に明け暮れた1年でもあった。ピチカート・ファイヴ解散ライヴへの参加、heacoのプロデュース、中村一義へのリミックス、クリスタル・ケイ、キタキマユ、及川光博への曲提供など。中でも最大の目玉は、東京スカパラダイスオーケストラの「めくれたオレンジ」へのヴォーカル参加。スカパラの「歌もの」シリーズの記念すべき1作目で、スマッシュヒットを記録し、スカパラ大ブレイクの布石となった。このころは『ビッグクランチ』のリリース時よりも「久しぶりに田島貴男を見た」と言われてたっけ。

ちなみに、この曲のタイアップ商品のキリン「氷結果汁」(現「氷結」)は、このとき新発売で、缶酎ハイの勢力図を塗り替える大ヒット作となった。酒好きの自分も「氷結果汁」にはものすごくハマった。フレッシュな果汁感に溢れていて、逆にアルコール臭はキッチリと抑えられた革新的な味の缶酎ハイだった。しかしパッケージが変わるたびに味が落ちていくのがハッキリとわかり、今ではなんでもないタダの酎ハイに零落れてまった。

2001年の田島のブームは、サックス。『ビッグクランチ』作成後からジャズを聞きなおしていて、ある日突然「俺サックス吹ける!?吹けるかも!」とひらめいたのがきっかけだったそうだ。松本健一氏に「弟子入り」して、本格的に取り組んでいた。「めくれたオレンジ」収録のときもサックスを持ち込んで、あわよくば吹かせてもらおうと考えていたそうだ。そのブームがこのアルバムに影を落としているのは言うまでもない。

そして、アルバム発売直前の翌2002年の2月ごろ、テレビでボクシング観戦にハマったのをきっかけに、ボクシングジム通いを始めている。つい最近の「Tajima's Voice」でもジム通いのことが語られるので、これは相当に長い趣味となっている(そして岡本太郎にハマるのが同年の7月ごろ)。


1.夜行性 (アルバム・ヴァージョン)

2.アダルト・オンリー (アルバム・ヴァージョン)

夜行性/アダルト・オンリー

夜行性/アダルト・オンリー

先行シングルは初の両A面。しかもアルバムがシングル曲で始まるのも初めてだった。アルバム収録に際して両曲とも歌い直していて、聞き比べるとハッキリと違いがわかる。

とくに「アダルト・オンリー」は、アルバムに慣れた耳でシングルを聞くと、まるでデモ・ヴァージョンのようである。アルバムに採用されたのは、田島が完全に満足した歌唱だった。一方でシングルでは「疑惑ぅ思惑」の音のハズレがない。このプロらしからぬ音の外しを直さなかったのは、あくまで「一発録音」にこだわったため。オーバーダビングは絶対にせず、頭から1回で歌いきることを課して歌入れを行ったのだった。そしてその制約はヴォーカルだけでなく、他メンバーのすべての楽器に課せられた。それはつまり、「生音重視」ということでもあり、『ビッグクランチ』とは180度違った発想でこのアルバムはできているということである。田島がこのアルバムのムードを指してよく使っていた言葉が「ブルース」。昔の音楽が持っていたフィーリングを重視してアルバムを作っていったそうである。

シングルが出る前に田島が両A面について語っていたのは、「夜行性」は「オリジナル・ラヴらしい曲」、「アダルト・オンリー」は「これがオリジナル・ラヴ?という曲」とのことだったが、自分が初めて聞いたときの印象はちょうど逆だった。「アダルト・オンリー」はまだ『ビッグクランチ』の余韻を引きずっているように聞こえ、「夜行性」のキラキラとした軽やかさには、田島も一皮剥けて新たな境地へたどり着いたのだという感慨を強く持った。アルバム全体も軽みのある音でできているが、『ビッグクランチ』を通り抜けたその音には、自然の成り行きを感じたものだった。

このシングル発売のとき、大々的な視聴キャンペーンが展開された。シングル発売前にシングルを聞けるばかりか、「トライアル・セッション」の音源が聞けた。

http://www.ponycanyon.co.jp/tpic/originallove/ (なんと今も残っている!)

今にしてみればかなり気合の入っているプロモーションだが、当時は『ビッグクランチ』のときのL?K?Oと二人で小さなクラブを回って演奏するプロモーションの印象が強かったので、縮小されたものだという印象のほうが強かった。相変わらずタイアップもなく、ポニーキャニオンのやる気のなさばかりが感じられたものだった。

このキャンペーン、もちろん自分も感想メールを投稿した。自分としちゃ割とよく書けたと自己満足したものだったが、上記のとおりページには採用されなかった。PC内に保存されていたので、日の目を見させてあげよう。

オリジナル・ラヴを人に紹介したいとき、なにを聞かせたらいいものかいつも悩む。ヒット曲系ならば無難だが、奔放な音楽性をカヴァーすることができない。アルバムを紹介しようにも、各アルバムのコンセプトが違いすぎてかえって混乱させてしまう。

しかし、今回の両A面シングルはそんな悩みに答えてくれそうだ。

夜行性」はパブリックイメージのオリジナル・ラヴ。昔ファンだった彼女にも聴かせてあげたい佳曲だ。

アダルト・オンリー」は、いつものアグレッシヴなオリジナル・ラヴ。今の音を待ち望んでいた耳を満足させてくれる。この2曲が「両A面」であることは、オリジナル・ラヴの両面性を代弁してくれているようだ。

そして両方に通じる、アコースティック感、民族的なリズム、アクセント的に付けられた機材の音。これまでのオリジナル・ラヴの歴史がここには凝縮されている。誰かに「オリジナル・ラヴってどういう音?」と聴かれたとき、「このシングルを聴きな」とポンと出せる、そんな素敵な1枚だと思う。

そして「TRIAL SESSION」。

楽器の音の少なさのせいなのか、会場の空気がビシビシと伝わってくる。

田島が今回の音源を「最高」と言っているのは、こういうあたりが理由なのかもしれない。

マーヴィンではなく田島の歌となってしまった「I WANT YOU」、ジョンの魂が乗り移った「接吻」など、優れた曲ばかりだが、中でも『L』の2曲が白眉だった。

白い嵐」。虚空に漂っているような『XL』のアレンジがとても好きだったが、それをも超えてしまった虚無感がたまらない。音数の少なさがさらに希薄な空気を生み出し、聴いていて息が詰まりそうになった。

そして「羽毛とピストル」。ジャズっぽさとソウルっぽさが言ったりきたり。

こういう「不安定なヴァランス」が反映された1曲が新譜に入らないかと期待。

夜行性」の作詞は松本隆。メンバー以外の作詞は、『RAINBOW RACE』の酒匂春水(田島の奥様という説がある)以来で、プロの作詞家となると「DEEPER」の吉田美奈子以来。田島曰く、非常にはっぴいえんど的な歌詞なのだそうだ。プロの作詞家から得るものも多かったらしく、インタヴューでも昔は苦痛だった作詞が今は楽しくてしょうがないという話をしていた。

夜行性」のスキャットは、シングルヴァージョンの方がかっこいい。

3.GLASS

「It's a Wonderful World」以来の、全編ファルセット唱法の曲。「トライアル・セッション」では、やはりファルセット曲のピチカート・ファイヴの「誘惑について」を歌っていたのは、その布石だったのだろう。実際には、ディレクターから「ファルセットの歌を作ってよ」と言われて、気楽に作ったそうである。

しかし、そうは思えないほどファルセットヴォイスが効果的に使われている。とても儚く、壊れそうで繊細な曲になっている。「It's a Wonderful World」が超人的なハイテンションを表現したとすると、「Glass」は同じ声ながらまったく正反対の表現がなされている。

ガットギターのリフから音が少しずつ重なっていって大きくなっていく。最後のフレーズ前ですべての楽器が盛り上がり鳴るところでは、大した音量を出していないはずなのに、まるで曲が爆発するような錯覚を覚えさせる。

中間部のサックスは、ミニマルミュージックの手法。目眩ましのように2つのサックスの音が交差していく。歌に戻る部分でピタリと着地するあたりは、快感を覚える。

この曲のすごいところは、そんな風な先鋭さを感じさせる手法*1を多数使いながらも、結果があくまで軽妙なポップスに仕上がっているところだ。まさにポップアートのような1曲なのである。このアルバムでもっとも隙がなく完成度の高い曲なのに、そうしたキツさをまったく感じさせないどころか、脆く繊細な空気を醸し出している、奇跡のようなヴァランスを持った曲である。

『ビッグクランチ』の「地球独楽」のレヴューでも触れたが、ミニマルミュージックといえば、フィリップ・グラスという大家がいて、タイトルにもその意味が込められているのかもしれない。

ライヴでは田島と松本健一とのダブルサックスで再現されるものと期待していたが、残念ながらサックスは1本だけだった。

木暮晋也がスルド(太鼓)を叩いているのも、可能な限り6人のメンバーだけでアルバムを作ろうとしただめだそうだ。最初は音が多かったそうだが、どんどん削っていって今のような形になったとのこと。

4.悪い種

「トライアル・セッション」で先に披露されていた曲。

呪詛のようなリフレインが印象的な歌詞。歌詞には、こんな意味合いがあるようだ。

(『ビッグクランチ』を)通過したからこそ、ブルースみたいのがやりたくなったのかも知れないっていう気はします。(中略)色んな人っていうのが見えてきたし。人間っていうのにまたひとつ興味を持ってきたっていうか。で、そういうふうになって色んな音楽を見渡すと、やっぱりあまりにもエリート主義な音楽が多過ぎる。特に今メディアに出てる音楽って(中略)なんか、強いもの...「みんな強くなろう」とかさ。あと、今、よく“癒し”って言われてますけど、「みんな、人間のキレイなところだけを部分的にやろう」みたいなのがすごく多い気がしてね。なんか、それがすごく排他的な気がしてて。(中略)でも、キレイなものを聴かされてもね、こっちが汚い、荒んだ気持ちになってる時には、かえって疲れるっていうか。自分が癒し系の音楽聴いても全然癒されないっていうのがあってさ。(中略)そういうのって、なんか違うんじゃないか、みたいな。僕がやりたいのは、こう、汚れを含めた意味での癒しっていう、そういう意味でブルース。

『MARQUEE』vol.29より

2003年のライヴで、友部正人の影響を受けて「朗読」に取り組んだ際にはこの曲の歌詞が取り上げられた。

田島の不協和音のピアノがすごくクール。

5.月に静かの海

ショウマン」の続編のような雰囲気を持った曲。これも全部ピアノで作曲した曲。ニルソンやランディ・ニューマンのような雰囲気が出てしまうのが自分でも不思議なのらしい。

はじめは「911」のアメリカの同時多発テロに影響された歌詞だったのだが、思い直してラヴソングに書き直したそうだ。

この曲はタイトルがいい。「月の静かの海」と名詞にしてしまうよりも、体言止めのようにしてあるので余韻ができ、月を見上げている雰囲気が出ている。

6.守護天使

この曲のタイトルを思い出すと、スティーヴィー・ワンダーの'For Your Love'がBGMとなってなんとなく切ない気分になる。HMVのサイトにはじめてタイトルが出たとき、なぜか「東京天使」というタイトルだった*2f:id:keyillusion:20071011113513j:image:right 一昔前、青島都知事(今や故人)が中止した東京都市博というのがあって、そのマスコットが「東京大使」というキャラクターだった。この都市博のイメージテーマソングが、'For Your Love'。都市博中止のラジオCMというのがJ-Waveなどで流れていたのだが、そのBGMが当然'For Your Love'で、「東京都市博は、残念ながら中止となりました」という寂しい内容のナレーションにかぶって響くスティーヴィーの歌声がなんとも切なく、今でも耳に残っているのである。…あぁ回りくどい上にどうでもいい話ですんません。

間奏のサックスが印象的で、まるで初期のオリジナル・ラヴのような雰囲気を持った曲。メロディアスなベースラインがグルーヴィーなあたりも。

松本隆に歌詞を提供してもらった曲。歌詞の字面と歌ったときの語感のギャップに驚かされていい刺激になった曲だそうである。

それにしても、どうして松本隆はこんなストーカーの歌にしたのだろうか? 曲がいいだけに恨みが残る。


7.Xの絵画

田島は、パリのポンピドゥーセンターでバルテュスに触れて大きな衝撃を受けたそうだ。「X」は伏字のイメージ。エロティックな感じもあるとのこと。

はじめは苦手な曲だったが、ある日を境に急速に好きになった曲。バルテュスの絵画へのリンクもあるので、下記エントリを参照してほしい。この曲が苦手な人は、ぜひ部屋を暗くして(笑)ヘッドフォンで聴いてほしい。

http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20050625

ここに付け足したいのは、デジタル・モザイクのような無機質感が、実はアコースティック楽器で作り出されているということ。デジタルとアナログの融合。


冒頭の『サウンドデザイナー』誌によれば、楽器はコルグBX-3(旧型の2段鍵盤タイプ)、ソフトシンセはREAKTORのバージョン3.0。自分はよくわからないのだが、興味ある人もいると思うので書き足しておく。

8.哀しいノイズ

オリジナル・ラヴのラスト2曲前は、箸休めのような地味ながらもホッとする佳曲が多いが、この曲もまさにそう。緩急が実に絶妙な曲で、「靴を洗うさざ波 蹴り上げた」のところなど、スローモーションで水しぶきの1粒1粒までも見えるかのようだ。

田島のピアノも、はじめてわずか2年と思えないほど味のある演奏となっている。

クリスチャン・マークレイのライヴを観て、インスパイアされてできた曲。そのときの田島の興奮。

{田}最近思ったの。そう、クリスチャン・マークレー行って来てさ。もうね、ビックリしたのよ!
{小}ええ
{田}ノイズでね・・ノイズっていうか、ああいう音響で泣けたの、初めてだね!
(中略)
{田}もうね、僕の生涯のベスト10のライブにこれ、入ったなと。それ位、素晴らしかったの。もうね、涙が出て来てさ
{小}ふーん
{田}もうね、スッゴイ美しいのよ。ホント
{小}うん
{田}最高。あれはね「ポップス」だね、と思った
{小}ああ、もう、そう。ポップスになんなくちゃいけないですよね
{田}もうね。フツーのね、音楽知らない人でも感動すると思う。その位、美しいもので。「美」があったんですよ、そこに
{小}うん
{田}「この人は結局、美術家だ」と思った。それで、シカゴ音響だナンダカンダとか、色々言ってるけど、全然別だ!と思った
{小}うん
{田}何が違うかって言うと、「美」の為にね、自分の人生を犠牲に出来るかどうか、っていうか。そういった意気込みを感じたのよ

バースト010405

この「ポップス」と「美」の関連は、「GLASS」にも影響を与えていると思う。この話はもう少し掘り下げたかったのだが、ちょっとデータ不足(資料がどこだか忘れてしまった)。

9.冗談

これも「トライアル・セッション」で先に披露されていた曲。過去メールを見ていたら、「トライアル・セッション」のときの歌詞の聞き取りが出てきた。「夜の机は未知の惑星のシーサイド/打ち上げられた巻き貝のように寝転がり/俺の抜け殻の化石に風がうなり/また少し魂の重さが減る」という歌いだしだったそうである。相当変わっているのは、このあと「911」のアメリカの同時多発テロがあったため。現歌詞の「246」は渋谷付近を通る国道246号線のこと。たぶん、玉川通り。

タイトルとはうって変わって、非常にシリアスな曲。ミラン・クンデラに同名の小説があるが、そこからの影響なのだろうか。静から動、動から静への移り変わりが印象的。ホールトーンスケールがフィーチャーされた曲。

最後はドラムでビシっと締められる曲だが、ここは混沌の中へフェードアウトする方がいいのに、と思ったりもする。

「アポロの時代」というのは、ポルノグラフィティへのアンサーソング…のわけがない。調べてみたら、「オリジナル・ラヴを貫いて」と歌われた「ヒトリの夜」という曲は、「アポロ」とカップリングされて再発売されたそうである。繰り返すが、何の関係もない。

{イ}ラブ!!オリジナルラブ!
{田}オリジナルラブ。なんか、あれなんだって?、、ポルノグラフィティ。
{イ}ポルノグラフィティ。歌詞の中でね「ロンリーロンリー、なんとかでー、オリジナルラブを貫いてー」とかいって
{田}(笑)言ってるらしいですね。ビジュアル系っぽい、なんか
{イ}「アポロがなんとかでー」・・(笑)
{田}オリジナルラブ、使われたか、みたいな。でもフィーリーズからとってるもん俺。
{イ}(笑)そっち行く?
{田}(笑)うん、そっちから、みたいな感じです

バースト000413

10.ムーンストーン

アルバムタイトル曲は、インディーズ盤『ORIGINAL LOVE』の「ORIGINAL LOVE (BODY FRESHER II)」以来なので、実質的に初めてといってもいい。

ムーンストーン」は和名が月長石という宝石で、持っていると願いがかなうという言い伝えがある。そういうおまじないみたいなアルバムになれば、というので曲のタイトルが決定したのとほぼ同時にアルバムタイトルに決めたという。

最後のフェードアウトは、なんと機械を通さずに楽器でやっている。ヴォーカルもちょっとずつ小さく歌っている。よく聴くと、木暮晋也の足音も聞こえるそうだ。

全体的な感想

ビッグクランチ』がハイトーンで警鐘を鳴らすようなアルバムだったのに対して、一転低音で唸るようなアルバムとなった。「トライアル・セッション」で新作がアコースティックになるということは「予告」されていたので、アルバムを聞いたときに特に戸惑いはなかった。むしろその静謐感に魅了される一方だった。

月が「陰」の象徴であるようにこのアルバムは静的であり、清浄なトーンで貫かれている。無音さえも音の一部になっている。「GLASS」「哀しいノイズ」などはとくにその点に気を配られていると思うし、「冗談」の冒頭も無の混沌の中から歌が生まれてくるような感じになっているのがとても効果的だ。このアルバムが苦手な人は、部屋を暗くしてヘッドフォンで(またかよ)無音にも耳を澄ませて聴くといいのではないか。

そのクリーンさをベースとして、ダーティなノイズが混ざってくる。21世紀最初のアルバムだというのに非常に世紀末感があるというか、「終末」感が強いアルバムにもなっている。

直接的には「911」のアメリカ同時テロの影響である。「冗談」の歌詞が変えられたのは上でも述べたとおりだが、「神が試す街 犠牲あふれかえり さしのべられた手と手」とか、「悪い種」の「墓石の摩天楼 ~ 祈り届け」のくだりとかはかなり直截的な表現だ。

余談だが、同時期に出された小沢健二の『Eclectic』やコーネリアスの『Point』がどこか同じようなトーンになっているのも、3人とも同じ時代の切迫感を見ていたのではないだろうか。根拠のない想像だが、ピチカート・ファイヴの2001年の解散も、そういう空気を表現するには限界があると小西氏が感じたからなのではないか??



閑話休題。一方では耳を済ませて聞かなければならない曲があり、もう一方では混沌さが終末感を掻き立てる曲がある。それは「悪い種」のところで引用したような「汚れを含めた意味での癒し」、つまり清濁を併せ持つことである。それを田島は「ブルース」と言っていた。

濁りがあるから、清浄さも際立つ。「夜行性」のキラメキ感、「月に静かの海」の切なさ。それらには心が、本当の意味で癒される。

ところで、「911」は「トライアル・セッション」の「後」であることに注目しなければならない(2001年8月24・25・28日)。アルバムのサウンドが「トライアル・セッション」そのままとすれば、アルバムのサウンドは「911」の影響を受けていないのだ。つまり、「911」に関係なく、『ムーンストーン』のサウンドは「清濁を併せ持つ」というテーマを持っていたことになる。

この「濁り」とは何か。それは『ビッグクランチ』の余波なのだと思う。『ビッグクランチ』の「生命感」そのもののエネルギーが残っているのである(「生きる」とはキレイなものというより、汚いものではないだろうか?)。そういう生命感に、「ジャズ回帰」という装飾をほどこされたのが、この『ムーンストーン』なのだろう。つまり両アルバムは、見た目こそだいぶ違っているが、根っこは大きな違いがないのだと思う。

たとえば、「冗談」の「もういちど善や悪や愛や妬みの僕にチャンスをください」と祈りにも似た必死の叫び。この焦燥感こそ「生きている」という証しではないだろうか。その中でも「変わる時代きしむ街になお強く あなたを追いかける」と「愛」を忘れることはない。「生」や「愛」への田島のスタンスは、ここでも揺らぐことがない。

田島自身の「無数の問いかけ」への回答は、「闇に闇を追い払うことはできない/それができるのは光のみ」というフレーズなのだろう。けれども、それが最終回答でもないようだ。結局は「願いを聞いて 夢を叶えて ムーンストーン」と「おまじない」に頼らざるを得ない人間の儚さ、脆さを歌っているから。

「ぼくらの欲望に」というサブタイトルは、このアルバムを欲望に捧げるという意味ではなくて、「欲望」には「ムーンストーン」が必要ということ、つまり、人の浅ましさには、結局は人智を超えた何ものか(ムーンストーンがその象徴)に頼り、「重し」を乗せざるを得ないことを言いたかったのではないだろうか。


***

うーん、今回はうまく着地できなかった。まだ言いたいことをうまく書きとめることができない。心象スケッチのようになってしまったが、これにて勘弁。

最後に、これはおそらくほとんどのレヴューで語られないことだろうからここで語っておくが、このアルバムで注目されるべきはサックスの「松ちゃん」こと松本健一氏の存在だ。このアルバムが「原点回帰」のように語られていたのは、EMI時代のようにサックスが全編にフィーチャーされていたことが大きいだろう。さらに、随所でアクセントとなっているヴィブラフォンも松ちゃんの手による。ご本人から聞いたので間違いないが、ヴィブラフォンは元々専門外で、オリジナル・ラヴのために演奏するようになったのだそうだ。1993年にツアーメンバーとして参加以来、アルバム参加は少ないが、現在に至るまでもっとも田島貴男との演奏暦の長い人物となっている松ちゃん。ライヴメンバーがそのまま録音メンバーとなったこのアルバムは、それまでの労をねぎらうかのような、影で田島を支え続ける松ちゃんのフィーチャリングアルバムとなった。アルバム自体も図らずも松ちゃんのキラキラとしたサックスに始まっていることも指摘しておこう。

*1:べつに、ミニマルをいまさら前衛というつもりはない。あくまでもそういうのを「感じさせる」ということ。

*2:「月に静かの海」も「月の静かな海」というタイトルだった…というか、今でも間違えたままでやんの。http://www.hmv.co.jp/Product/Detail.asp?sku=266120

2007/09/18(火)

 その8『ビッグクランチ』 第3回(全3回)

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全アルバムを改めて聴きなおす「マイレヴュー」シリーズの8回目のその3。

ビッグクランチ

ビッグクランチ

  1. 『ビッグクランチ』発売まで~ビッグクランチについて
  2. 「仮想A面」レヴュー
  3. 「仮想B面」レヴュー(このエントリ)

B1.ダブルバーガー

シングル「R&R」のカップリングだったが、そちらには当然、冒頭のレコードのノイズは入っていない。また、曲の後に付くスペイシーな効果音もアルバムのみ。

A1の「女を捜せ」と同時に、「XXXツアー」で先に披露されていた曲。そのときのライヴでは「トゥルリラ」を2回歌っていたように覚えている。松本隆へのオマージュだ!(松田聖子の「野ばらのエチュード」)と色めきたっていた友人もいた(笑)。

ゴリゴリのロックナンバーだが、「地球独楽」と同じくホールトーンスケールが使われている。そのダブルギターは、フランク・ザッパがやりそうなチープさを出したものだとも言っていた。

タイトルだけ決まってたものの歌詞の内容はなかなか決まらず、木暮晋也に電話したところ「ダブルバーガーは女のでかいケツだよ」というヒントをもらい、30分で書き上げたという。

東京 飛行』のロックナンバー(「2度目のトリック」「13号室からの眺め」「ZIGZAG」)が気に入らない自分ではあるが、もっとベタベタだったこの曲にはまったく拒否感がなかった。歌詞のあまりのバカバカしさが曲と上手い具合にハマっていて、突き抜けた感じがあるからだろうか。


B2.MP

MPとは、歌詞にもある「Missing Person」のことで行方不明者の意味。ウィリアム・バロウズの小説『赤い光の街』の中で捜査官が「アイツは今MPだから」と言っているあたりに着想があったそうだ。一方で、このころJ-POPに流行っていた「自分探し」系の曲たちへのアテツケ(自分探し=自分行方不明)でもあるらしい。

「i」音で韻を踏んでいるラップ風の歌唱となっている。自分で歌ってみて、はじめてラッパーの「手」が、なぜああいう風に出てしまうのか、理解できたのだそうだ。

「文字化けしたホームページ」とサックスの松本健一に言わしめた歌詞には、一部解説が必要だろう。プロモから、田島による解説。

アメリカの国家安全保障局(NSA)が作り上げたコードネーム「エシェロン(ECHELON)」*1と呼ばれる電子諜報ネットワークは、地球上のどんな場所の電話、Eメール、テレックスによる通信も傍受、分析する能力を持っている。エシェロンは、NSAが管理し、英国の通信管理本部(GCHQ)、カナダの通信安全保険局(CSE)、オーストラリアの国防安全保障局(DSD)、ニュージーランドの通信安全保障局(GCSB)が合同で運営に当たっている。これら5か国の機関は1948年に締結されたUKUSA協定にもとづいて協力関係を結んだが、この協定の具体的な内容や条項は今日に至っても厚い秘密のベールに包まれたままである。

これだけの情報をサラッとポップスに仕立て上げてしまう田島の作詞能力は、この曲に極まれりと言えるのではないか。ラップ風になっているのは結果論であり、あくまでポップスの立場からぎりぎりまでヒップホップに肉薄している。この歌詞には、むしろパンクのような先鋭さを感じる。


B3.殺し

小西康陽が歌詞を提供した曲。冒頭にも書いたように、前年までに小西氏との関係はすっかり回復していて、このアルバムにははじめからピチカート・ファイヴの2人に参加してもらうつもりでいたようだ。(野宮真貴は「R&R」に参加)

当然、オールドファンは「惑星」「誘惑について」「夜をぶっとばせ」のようなマジックを期待してしまったわけだが、そのようなきらびやかな形での再演ではなく、ムード歌謡のような違う形となって現れた。個人的にはちょっと拍子抜けした曲だったが、一歩離れて聞いてみれば、クレイジー・ケン・バンドのエッセンスを取り入れたかのようで、小西氏のセンスを窺うこともできる。

2月の夜明けすぎに君の部屋を見上げ続ける「プライマル」は、なんかの雑誌記事で「3大ストーカーソング」に挙げられたことがあって(残りの2つは忘れた)、そりゃないよと憤ったものだが、これは正真正銘、言い訳もできないストーカーの歌だ。そういえば、『ムーンストーン』で松本隆に歌詞の提供を受けた「守護天使」もストーカーの歌だったし、田島はなんか変態的なイメージで見られているのだろうか?

B4.液状チョコレート

レコーディングエンジニア、松本靖夫氏のミックスが堪能できるテクノポップナンバー。L?K?Oとサンプラーでジャムセッションをしているうちにできた変なリフを元にして作られている。

愛の薬」と並んで、「機材」の成果が最大限に発揮された1曲である。そして「サファリ問題」「ダブルバーガー」以上に、性的にエゲツない曲。なんたってSMである。口の中が甘くなりそうな食物の連呼も、性行為のアナロジーだろう(食と性を結びつけるのはそれほど突飛な連想ではないが)。セックスだらけ(で有頂天)のこのアルバムの中で、曲も歌詞も一番エッセンスが凝縮された曲ではあるまいか。とくに、最後のサビで盛り上がった後、一気に萎えてしまうあたりは男の性的絶頂を見事に描写している、と思うのは自分だけだろうか(って、同意を求めても困るか)。こんな濃い内容の曲を、こんなにサラリとやってのけてしまうのが、このときの田島のすごいところだ。

ここまでの仮想B面には、「性」と「死」の匂いが付き纏っている。ここに、性交は一種の死の体験である、というバタイユの思想を『ビッグクランチ』に見て取っても、それほど牽強付会ではないだろう。そしてその「死」は決してネガティヴなものではなく、「生」と表裏一体となったものである。逆説的に生の素晴らしさを賛歌しているのが、この『ビッグクランチ』の主題ではないかと思う。その最たる例が次の曲である。

B5.アポトーシス

アポトーシスとは生物学用語で、体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺のこと。壊死(ネクローシス)とは区別される細胞死のこと。この研究者は、アルバムの発売のあと2002年にノーベル生理学・医学賞をしているように、新しい科学用語である。田島曰く、「だれかが使う前に曲名にしたかった」そうだが、実際にTHE BACK HORNというバンドが同名の曲を作ってしまった。

http://music.yahoo.co.jp/shop/p/53/2547/Y030524

曲の冒頭、1分ほど足音だけの音が入っている。これは1999年、田島が屋久島に旅行をした際、縄文杉を観に往復10時間の歩行中、フィールドレコーディングをしたものである。よく聴くと、滝に落ちる水の音、川のせせらぎなどが確かに聞こえる。

歌詞のタイトルとこの効果音、何ら繋がりも意味もないように思えるが、実はある重大な事実と絡んで非常な重みを持っている。

田島が屋久島を旅行したのは、1999年のゴールデンウィークのことだった。今そのログは消えてしまっているが、当時のOFFICIAL WEBの「Tajima's Voice」でそのことは明記されていた。その真っ最中の1999年5月2日、一人のミュージシャンが「不慮の事故」でこの世を去った。その名を青木達之、東京スカパラダイスオーケストラのドラマーで、実質的なリーダーだった男である。言うまでもなく田島とは旧知の仲で、むしろ戦友とでもいうほど親しい間柄だった。田島が縄文杉を観ていたのがまさに「その日」だったのかはわからないが、少なくとも青木氏が死に面しているまさにそのときに、この音がレコーディングされたのは間違いがない。

もう一人、田島とは直接の関係はなかったが、同じ年の3月にこの世を去ったミュージシャンがいた。その名は佐藤伸治。フィシュマンズのヴォーカリストだ。盟友木暮晋也は、フィッシュマンズのサポートギタリストでもあった。そして、この曲でドラムを叩いているのは他ならぬフィッシュマンズの最後のメンバー、茂木欣一なのだった。

この2つの死がこの曲に影を落としている。

アポトーシス」という言葉はきっと、目新しい言葉というだけで採用されたのではない。自分のあずかり知らないところにも死はある。胎児の手は、はじめ団子状で作られ、手の一部の細胞が自死(アポトーシス)することで指が生れるという。指の間の細胞が死ななければ、手はその形にならないのだ。そうした死の積み重ねで、今の生が成り立っているのである。

それと同じように、たとえ自分の遠いところで起きた死であっても、それはきっと今の自分にとって無駄なものではないのだ。その死のおかげで、この生があるのだ…ということを田島は歌いたかったのではないだろうか。それならばこそ、「ありがとうアポトーシス」と田島は歌うのだ。

ライヴでこの曲を聴いたとき、田島が目に涙を浮かべて歌っていたのが忘れられない。

田島貴男作のレクイエムといえば「フィエスタ」*2と「髑髏*3があるのだが、唯一マイナー調なのがこの曲である。


B6.地球独楽リプライズ

この曲は「アポトーシス」の後奏である、と田島は明言していた。不意に渡る声に気づき空を見上げると、いつのまにか目の前に宇宙が広がっていく。「死」というできごとも、この大きな宇宙の中ではまったく自然なひとつのできごとでしかないことにわれわれは気づかされるのだ。そうしていつしか意識は加速して彼方へ遠ざかる。そんなスケールの大きな展開。このアルバムの最大のクライマックスだ。

歌詞的には宇宙が広がっていくのだが、音楽的にはビッグクランチの一点を目指していく。この曲の残音の消える最後の瞬間こそが、宇宙の収束した特異点「ビッグクランチ」と言えるだろう。

B7.R&R

そのビッグクランチという宇宙の究極の終息からもはみ出して、天上からまっ逆さまに落下してくる衝撃的なオープニング! 前曲までの感傷を照れ隠すように吹き飛ばす、この大袈裟なアルバムのエンディングに相応しい大馬鹿な曲である。

ビッグクランチからもはみ出してきたのものは何なのか。それは「生」である。とにかくこの曲は「過剰」である。ダブルドラムスで演奏されていることをはじめとして、生命の爆発、ロックンロールの初期衝動などの言葉と直結するかのようだ。歌詞面でも「激情の炎」「理由はいらない、吠えろ太陽に」「胸いっぱいの愛に生きて」など、生命の喜びに満ち溢れたフレーズでこの曲は溢れかえっている。その歌詞は非常に難産で、40回くらいも書き直したそうだ。

そんな風に歌詞に苦労した一方で、曲の方は3分くらいで一気に書き上げたのだそうだ。冒頭のシャウトでも「SING A! SIMPLE! SONG!」と叫んでいる(スライ&ザ・ファミリーストーンの`Sing a Simple Song`にちなむ)。名曲はみな3分で書かれている、とエリック・クラプトンが言ったそうであるが、まさしくこれも名曲なのである。

タイトルも、歌詞同様なかなか決まらず、最後に3つ残った中から決まった。残りの2つは「オリジナル・ラヴの激情」「太陽に吠えろ」だったそうだ。後者はクリップ集DVDのタイトルとなった。

太陽に吠えろ [DVD]

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どのタイトルになったにせよ(しかし、もし前者だったらと思うと!)、湧き上がる「生」への衝動をここで歌い上げたかったのは間違いないようだ。仮想B面はここまでずっと「死」の匂いに纏わりつかれていたが、「地球独楽リプライズ」で宇宙を通過すると、それまでのベクトルは一斉に反対の方向を指ししめすのだった。この劇的な展開こそが、このアルバムの本当のクライマックスだろう。

改めて言うが、このアルバムは生命賛歌が主題のアルバムなのである。アルバム全体は、一見したところ変態的というか、セックスと死の匂いに満ちたネガティヴなもののようにも思うが、それも裏側からの生命賛美なのだと思う。むしろ、過剰なネガティヴさがあるからこそ、「地球独楽」「ショウマン」の美しさ、「R&R」の破天荒さなどが際立って光り輝くのだと思う。

この曲のインスピレーションは2つ。ひとつは2000年の春に再放送されていた「西部警察」。大規模な爆破シーン、常に全力疾走の刑事たち、レーバンのタレサンの大門刑事、この曲を書いている間中、そのイメージが頭から離れなかったそうである。

もうひとつは、「XXXツアー」でカヴァーしていたエルヴィス・プレスリー。くぐもったような歌い方は明らかにプレスリーを意識しているし、中間部のテンポダウンは「サスピシャス・マインド」へのオマージュだ(パクリと言ってもいいか)。

この曲の特徴でもあるダブルドラムスは、平井直樹と茂木欣一の2人によるもの。そういえば、田島が高橋幸宏の番組にでたとき、このダブルドラムスの話になって、幸宏が「昔、ポンタ村上とやったことがあるけど、てんでバラバラで息が合わなかったの」という笑える話をしていた。しかし、その息の合ったダブルドラムのせいなのか、ライヴでやるときにはどうしても音が薄っぺらく聞こえてしまう。かつてはライヴの音をレコードに持ち込めないことに苦労していたことを思うと、なんとも皮肉な話である。

そしてこの曲は、先行シングルでもあった。「名刺代わりの1枚」として書かれた曲。爆音ロック系のシングルはそういえばはじめてだったが、曲が"変"すぎたせいなのか、綺麗に売れなかった。売れなかったのはアルバム自体もそうで、盛り上がっていたのは、一部の雑誌と熱心なファンだけだった印象があった。

R&R」は、ラジオで「アールアンドアール」と読まれたこともあったが、タイトルの読みは「ロックンロール」である。もしかしたらこれ、後追いの人だと読めない人もいるのかもしれない。

R&R

R&R

↑これじゃ売れねえか…。

なお、このシングルに収められているアルバム未収録曲が、当ブログのタイトルの元ネタ「バベルの塔または火星での生活」である。L?K?Oの鬼のようなスクラッチと田島の変態ヴォーカルが華麗な融合を遂げた佳作。真夏に聞くとウザイほど熱い。大好き。

全体的な感想

個人的には、このアルバムこそがORIGINAL LOVEの「最高傑作」だと思っている*4。一般的な名盤の誉れ高い『風の歌を聴け』よりも、である。楽曲の幅の広さも、あのゴッタ煮2枚組1stアルバムをも超えてしまっている。ライヴ感溢れる轟音系ロックから、テクノポップ、あげくはヒップホップまであるのだ。能地祐子が言っていたと思ったが、こんなに田島貴男的小宇宙が余すところなく爆発したアルバムは他にない。

しかし、それは田島一人ではなしえなかったことだろうと思う。とくに、副プロデューサーにもなったL?K?O(本名:三次貢)の存在は、サウンド面に与えた影響以上に大きいはずだ。「地球独楽」のエピソードにもあるように、「それ最高っすよ」という感じで田島の世界をとめどなく広げていったのが彼の役割だったように想像できるからだ。思えば、田島は周りに持ち上げられてもらって、ようやく自分の世界を表現しきれる人なのではないか。例えば、小暮晋也との親交はまさにそのように見受けられるし、バンド時代だったころも、年長のメンバーに支えられ、煽てられながら次々に作品を作っていたのではないだろうか。一人になってしまった『DESIRE』や『ELEVEN GRAFFITI』にどこか閉塞感が漂っているのも、それと無関係なことではないだろう。

(言い方が逆になっているが、こちらのエントリも参照されたし。http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20040729/p2

自分個人の話だが、『L』が出て、「FIREWALKING」ツアー、「XXX」ツアーと経て、少しずつ田島の向かっている方向がはっきりとしてきて、「BURST!」の番組内での選曲などでも次第に盛り上がってきて、アルバム発売前にはL?K?Oと2人だけのドサ周り全国クラブツアーまであったりして、見事に「満を持して」出されたアルバムだった。田島の小宇宙と自分の小宇宙が、ハッキリと衝突交差して共鳴しあった。あのころは、ファンを続けていて本当に良かったなぁと思ったし、自分のファン暦の中でももっとも盛り上がった時期でもあった。また発売日が8月という夏の真っ盛りだったのも良かった。オリジナル・ラヴは、やっぱり夏のミュージシャンなのである!


この3年後、田島は『踊る太陽』の前に岡本太郎と出会い、「爆発!爆発!」とハシャいでいた。しかし自分には、すでにこのアルバムで完璧に自分の宇宙を爆発させた人間がなにをハシャいでいるのだろう?と疑問でしかなかった。むしろ、他人のイディオムを借りて「爆発」と騒いだことで、このアルバムの「爆発」ぶりが矮小化されてしまったかのようで、なんだかシラけてしまった。自分が、田島の岡本太郎趣味に冷淡なのには、そういう理由がある。近作でも、「明日の神話」は名曲だったからいいようなものの、まだ続く気配がある。もうイイカゲン、人のフンドシにしがみつくようなことはやめてほしいもんだ。田島はさ、岡本太郎なんてものを持ち出さなくても、充分に自分の宇宙を爆発させることができる「アーティスト」なのだから。


<<クイズ>>このアルバムにないもの  解答編

このアルバムにないもの、それは「フェードアウトの曲」です。

hiroharuさん、バラくまさん、お見事正解です! パチパチパチ(景品はありません。すみません)。hiroharuさんは、いきなりの書き込みの正解でさすがです。

CDJさんから「曲間がない」というお答えもいただきましたが、やはり切れていると思います。そういうアルバムは90年代のエアロスミスが思い出されます。でも、アルバム全体が2つの(A面とB面)トラックになっているようではありますね。コンセプトが見事成功しているということなのでしょう。

地球独楽リプライズ」はフェードアウトではないのか?というツッコミは入りそうですが、上にも書いたように残響を聞くのがあの曲のポイントなのであれはフェードアウトではない、とさせてもらいます。ま、そういうツッコミが入らなくてホッとしましたが。

*1:歌詞では「エシュロン」だが、田島の解説では「エシェロン」となっている。どっちが正しいのか調べてみたら、こんなページがヒットした。「シェ」が正しいそうです。http://www.asyura2.com/0406/war57/msg/1005.html

*2:セカンドラインは、葬式のときに棺に乗せた使者をお墓に送るときに演奏されるリズム。

*3:亡くなった友人へ捧げられた曲。

*4マイランキングでは3位に位置づけたが、まぁ1位と2位はもっと強い私的な思い入れがあるので。

2007/09/07(金)

 その8『ビッグクランチ』 第2回(全3回)

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全アルバムを改めて聴きなおす「マイレヴュー」シリーズの8回目のその2。長い前置きを終えて、各曲のレヴューです。

ビッグクランチ

ビッグクランチ

目次

  1. 『ビッグクランチ』発売まで~ビッグクランチについて
  2. 「仮想A面」レヴュー (このエントリ)
  3. 「仮想B面」レヴュー


A1.女を捜せ

「タイトルが決まると曲の9割が完成する」というギターウルフのセイジの楽曲作成の影響を強く受けた曲。フランスかどこかの国の捜査官の格言「女を捜せ」というフレーズを、バッファロー・ドーターのムーグ山本の家の本棚より見つけたことからタイトルが決定した。後はL?K?Oと「女を捜すリフ」を探し出すばかりだったという。そうして見つかったリフは、映画「サイコ」からのオカルトチックな音だった。田島曰く、この曲のイメージは以下のとおりである。

密林の中をファシスト達が"女を捜して"匍匐前進しているイメージを元に、L?K?Oとオレ(田島)がサンプリングブレイクビーツを組み合わせて作り上げた、カットアップ・ロックンロール、「女を捜せ」!!

アルバム発売前、'99年の「XXXツアー」では、ライヴのオープニングを飾って衝撃的な初披露となった。ところが実はこの曲、アルバムの中では最後の方にできた曲だった。最初このアルバムは、「地球独楽」からはじまり「地球独楽リプライズ」で終わる予定だったのだが、それではあまりに「怖すぎる!」ということで、導入部(「女を捜せ」)とエンディング(「R&R」)を後から作ったのだそうだ。

冒頭が田島のカウントからはじまる。これはビートルズの『リヴォルヴァー』のオープニングを真似たもの?かどうかはわからないが、このアルバムには随所にビートルズの影響が見られる。


A2.地球独楽

宮沢和史は「時差を駆ける想い」を「地球の自転を音楽にした曲」と評したが、それならばこの曲は「宇宙の回転を音楽にした曲」と言えるだろう。田島の宇宙趣味とラヴソングが完全に一体化している、信じられないスケールの曲だ。

このアルバムで最初に出来た曲。L?K?Oに「おそるおそる」聞かせたところ、ものすごく気に入ってもらえて、アルバム製作に励みが付いたのだそうだ。もし、L?K?Oの反応がイマイチだったら、このアルバムは全然違った形になったのだろうか。

出だしのピアノは、「ホールトーンスケール」という音階。鉄腕アトムのイントロが一番有名な例で、宇宙的な雰囲気が出る音階である。その後「冗談」や「沈黙の薔薇」などにも使われるので、田島には馴染みの音階のように思ってしまうが、最初に使われたのはこの「地球独楽」でだった。

ジャズでよく使われる音階だそうだが、古くはドビュッシーあたりにまで遡るという。田島はなんと、高校時代にギターでドビュッシーのカヴァーをして覚えたのだそうだ。

T「ホールトーンスケールって『地球独楽』のイントロの♪ダダダダダラララ…」

M「そうだね。」

T「あれなんてホールトーンスケール。あれをただダーン!低音と下でバーン!とやるだけみたいな。そうすると凄いドビュッシーっぽくなって。僕ピアノ弾く前ドビュッシーのマネとか言ってホールトーンスケール弾くだけでね、最高気分いいっす(笑)。」

ORIGINAL LOVE presents BURST! #105

このページを読むと、田島はミニマルミュージックにも相当詳しいようだが、そうなると『ムーンストーン』の「Glass」はやっぱりフィリップ・グラスにちなんでいるのかもしれない…とこのネタはまたいずれ。

さて、田島はこの曲を「オリジナル・ラヴ史上最もプログレッシブな曲」と評した。1つの曲の中に、まったくキャラクターの違う2つのメロディが調和した、はっきりとした構成を持っているからだろう。

この曲を聴くと、自分の中で広がるイメージ(妄想ともいう)がある。「スインクバイ航法」と、ビートルズの「A Day In The Life」だ。

スイングバイ航法

惑星探査機などの軌道修正に使われる航法のこと。惑星の重力を利用してスピードの加減もできるという。

http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/swingby_navigation.html

ホールトーンスケールのAメロが、惑星の重力を利用しているプロセスで、中間部のBメロが、宇宙空間を漂っているプロセス、というアナロジーが思い浮かぶ。「冒険王」の「宇宙にただひとり また会える日もあるのかな」というフレーズともイメージが重なってしょうがない。

A Day in the Life

地球独楽」と同じく、2重構造を持った曲である。ジョン・レノンが作曲したメインの曲の間に、ポール・マッカートニーが別に作曲した曲が挟まれている。これは「似ている」という次元ではなくて、田島はハッキリとこの曲を意識していたと思われる。なぜなら、その証拠が曲に刻まれている。「A Day In The Life」では、ジョンのパートからポールのパートへ移るとき、高らかに「目覚ましベル」が鳴り響くのであった。

中間部のピアノのメロディは、田島の作り出したメロディの中でも最上級に値する美しさを持っていると思う。


A3.愛の薬

TLCやディステニーチャイルドのリズムトラックがヒントになった曲。

アルバム製作中の逸話。これが「愛の薬」の元と思われる。

L「今日一曲いい感じに最終段階になったじゃないですか。で、一日聴いてないだけでスゴイことになってたじゃないですか、あの曲。」

T「あれよかったでしょ?『チキテク』。仮タイトルで『チキテク』ってつけてるんですけど。」

L「『チキテク』ヒッドイんですよメチャクチャ。考えらんないですよ。仕事で疲れて帰ってきてアンニュイになってるオーエル(否オリジナルラヴ)の人達がね、『オリジナルラヴ聴いてほっと一休み』ってCDポチって付けた時に、あれがガーって流れてきた時にどういう感じになるのかと思って(笑)。」

T「そうね。」

L「最高にセクシーですよ(爆笑)。」

ORIGINAL LOVE presents BURST! #25

99年の秋にシングルとしてリリースされる話もあったそうだが、結局それはなかった。もしそうなっていたら、『ELEVEN GRAFFITI』以降の「機材主義」を象徴するようなシングルになったはずで、ORIGINAL LOVEに対するパブリックイメージも少し変わったのかもしれない。今聴いても、これほどに「チキテク」が日本のポップス化している曲も少ないのではないか。

低音の歌い出しは、本人も「寺尾聡か」というくらいお気に入りだったようだ。途中に差し挟まれるフランス語は、昔のシャンソンから引用されている。


A4.セックスサファリ問題OK

B3と並んで、発表のときに特に物議を醸した強烈なタイトル。「憧れのサファリ」という女性雑誌の見出しから着想を得たのだという。

冒頭の銅鑼は、田島本人が打ち鳴らしている。ライヴでは、東京公演くらいでしか登場しなかったのが残念。レコードで最初聞いたときは、この瞬間に全身に鳥肌が立って、「これはやっぱり傑作アルバムだ!」と予感したものだった。

間奏のシャウトは、バッファロー・ドーターのムーグ山本。収録は99年の9月ごろ。

新曲聴かせたら、ムーグさん、『これは馬だよ!、パカッパカッパカッだよ!』とか言い出して、あまりにもそれが面白いからっていうんで、それ録りましょう、ってことになって。あれは何回聴いてもムーグさんに聞えないですよ。あまりにも曲に合ってるんで、プロのナレーターみたいな人にやってもらったみたいな感じですね。

ORIGINAL LOVE presents BURST! #28

A5.ショウマン

「生まれて初めて最初から最後までピアノで作った曲」。「地球独楽」の中間部のメロディは、おそらくピアノで作ったものと思われるので、「全部」を作ったのはこの曲が始めてということなのだろう。ピアノを突然購入したのは、98年ごろ。それまではほとんど触ったことがなかったという。

それにしても、「地球独楽」といいこの曲といい、ピアノが生み出す田島メロディは、極上の美しさを持っている。ビートルズの'Let It Be'はなぜ名曲なのか、ということに「いつも使っているギターではなく、使い慣れない楽器でメロディを作ったので『素』がそのまま出たのだろう」と、田島本人が解説していたことがあったのだが、その例に当人も漏れることはなかったというわけだ。

冒頭の効果音は、クジラの鳴き声を逆回転させたもの。ここにもビートルズの影響あり。

ネットのどこかで読んだ話なのだが、付き合い始めたばかりの彼女にORIGINAL LOVEの素晴らしさを知ってもらおうと、勇んでこの曲を聞かせたところ、「盛り上がりのない曲ね」と彼女にバッサリと斬り捨てられて落ち込んだ、という笑い話があった。彼氏には気の毒というほかないが、この彼女もなかなかどうして、正鵠を射ていると思う。なぜならこの曲、全編がサビでできているようなものだから。全部が盛り上がっているということは、逆に言えば起伏がないというわけだ。それだけファンにとっては至福の6分弱である。個人的には、ORIGINAL LOVE最高のバラード。「接吻」や「プライマル」どころではない。「二つの手のように」「アイリス」をも超えてしまった。


曲の最後に聞こえてくるアナログレコードのノイズは、「A面」と「B面」を分ける合図。CDでありながら、アナログの裏表を再現したもので、「仮想A面」「仮想B面」と田島は呼んでいる。「CDを一時停止させて、トイレに行って来るなりお昼ご飯を食べるなりコーヒーブレイクにするなりしただいていて結構」とは田島の弁。

初回盤の仕様が2枚組のようになっている(CDサイズの紙盤が見開きの反対側に綴じられている)のも、アナログ気分を出してもらいたかったからだという。

ということで、このレヴューもここで一時停止します。

2007/09/05(水)

 その8『ビッグクランチ』 第1回(全3回)

|  その8『ビッグクランチ』 第1回(全3回) - バベルの塔または火星での生活 を含むブックマーク  その8『ビッグクランチ』 第1回(全3回) - バベルの塔または火星での生活 のブックマークコメント

全アルバムを改めて聴きなおす「マイレヴュー」シリーズの8回目のその1。

マイレヴュー第5回『XL』で「『ビッグクランチ』へ続く」としたものの続きです。1年も待っていた人はいないと思いますが、とにもかくにも続きを書けてホッとしています。

ビッグクランチ

ビッグクランチ


参考資料

いつもは聞きながらあまり裏を取らずにダラダラ綴っていますが、今回は、以下の3つの資料を座右にしてある程度キッチリと綴ってみました。

『MARQUEE vol.20』 2000年8月発行

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この号は、『月刊カドカワ』1994年7月号に匹敵する、今までのORIGINAL LOVE特集の最高峰の1つ。表紙がオリジナル・ラヴ、裏表紙が『ビッグクランチ』の宣伝。プロモでのみ配られた田島自身による「ビッグクランチ」全曲解説を全文掲載、ヒストリー、プロモまで含む完全なディスコグラフィ、田島に影響を与えた音楽の特集まで、非常に盛りだくさんの内容。2000年時点での田島貴男の大半が詰まっていると言っても過言ではない、まさに永久保存に相応しい1冊。


「The Original Love Pack BIG CRUNCH CD.VT.BK. promo」

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上のような感想を書いて『MARQUEE』へ読者アンケートを送ったら、見事当選したものです。サイン入り。いや、自慢したいわけじゃなくて、ここでないと知りえない情報があるので。






ORIGINAL LOVE UnOFFICIAL PAGE」 BROADGRAPHY 「BURST!」

http://www.ne.jp/asahi/original/love/broadgraphy/burst/

BURST!」は製作中に放送されていただけあって、『ビッグクランチ』~『ムーンストーン』にかけての制作秘話が満載の番組でした。

聞き取りサイトは複数ありますが、今回はUnOFFICIAL PAGEを使わせてもらいました。ありがとうございます。

ところで、『東京 飛行』のディスクデータが未だに更新されていませんが、ぜひとも頑張っていただきたいものです(と、プレッシャーをかける)。

***

アルバム全体の評価は、http://originallove.g.hatena.ne.jp/keyillusion/20050309/p3を参照してください。これを前提に書いているところもありますので、先に目を通してください。


今回はなんと、3回に分けた構成です。

  1. ビッグクランチ』発売まで~ビッグクランチについて (このエントリ)
  2. 「仮想A面」レビュー
  3. 「仮想B面」レビュー


ビッグクランチ』発売まで

マイレビュー第5回『XL』の最後からの続きです)

変身』リリース時、「マグロ状態」だった田島は、それと共に次第に「男臭」を身に纏ってきた。

1999年4月スタートのラジオ番組「BURST!」で田島が最初のリコメンドしたバンドは、ギターウルフだった。轟音剥き出し、夏でも革ジャン、「洗練」という言葉とはもっとも遠くにあるバンドで、オリジナル・ラヴのイメージからも対極にあるバンドのはずなのだが、田島は「今日本で一番好き」とまで言い切っていた。

シングル「冒険王」の宣伝文句も「俺もお前も冒険王だ!」というもので、男臭さを前面に出すことで、そのダサさとか格好悪さとかを楽しんでいるようでもあった。

田島と直接の関係はないのだが、この時期の田島が間違いなく纏っていた「男臭さ」は、たとえばこのCDの内容のようなものであった。

男 宇宙

男 宇宙

1999年の12月には「XXXツアー」を敢行。1曲目は、なんと新曲の「女を捜せ」であった。他に「ダブル・バーガー」なる曲も披露されたり、エルヴィス・プレスリーのカヴァー(「サスピシャス・マインド」)も演奏していた。内容も、夏の「FIREWALKING」ツアーをさらに重く熱くなっていて、次のアルバムの濃密さを激しく予感させるものだった。

一方で、1999年11月発売のピチカート・ファイヴのアルバム(名前のないアルバム)に、田島が脱退以来初参加し、さらには大晦日、西暦の4桁目が繰り上がる瞬間に田島は、ピチカート・ファイヴのカウントダウンライヴに参加していた。10年ぶりのステージ共演だった。98年ごろから邂逅していた田島と小西の関係は、完全に修復された。

2000年が明けると、早々に新アルバムのプリプロダクションを終了。2月にはV6への提供曲「野性の花」がドラマに使われたりもした。

そのころ、衝撃的なニュースが飛び込んできた。なんとORIGINAL LOVEが海外へ初進出するというのだ。アメリカ・オースティンの South by South West(SXSW)フェスティヴァルへの参加だった。これは音楽の見本市みたいなもので、バンドの演奏を聴きながら裏ではいろいろなプロモーションが行われるらしい。このときの日本のほかの参加バンドは、パフィーやスーパーカーなど。オリジナル・ラヴは「MP」や「地球独楽」を初演するなどして、そこそこに盛り上がったらしい。「R&R」のプロモーションヴィデオ(アメリカのチアガールに囲まれるアレ)も、このとき一緒に撮ったものらしい。すわ、全米デビューか?と思わせたものの、結局そういうことにはならなかった。そして現在に至るまで、日本国外でのライヴはこの1度きりである。

当時ブレイク前夜だったCRAZY KEN BANDとの親交が深まったのもこの時期。前年にライヴで共演した折、楽屋で横山剣が「アルバム全部持ってます」と田島に握手してきたのがきっかけだったという。5月のフジテレビ「FACTORY」で共演、6月には「ショック療法」のリミックスを担当する(12インチリミックスアルバム「THE PLAYBOY'S MANUAL」)。


結局1999年には新アルバムを出すことなく終わってしまった田島ではあったが、上記のように目まぐるしい活動は続いていた。そして2000年の8月、ついに出されたアルバムがこの『ビッグクランチ』であった。

ビッグクランチについて

そもそも「ビッグクランチ」とは何なのか。はてなダイアリーのキーワードにもなっているが、ここは田島自身の言葉で解説を受けよう。

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宇宙は現在膨張を続けているが、ビッグバン宇宙を記述するアインシュタイン方程式によると、宇宙の未来に関しては、「閉じた宇宙」「開いた宇宙」「平坦な宇宙」の3種類のシナリオが考え得る。

「閉じた宇宙」は、宇宙の膨張速度に比べてそれに含まれる質量が大きく、未来のある時点において膨張がストップし、逆に収縮に転じ、最後は宇宙の全てが1つの特異点に収束する「ビッグクランチ」で終わる。

「開いた宇宙」は、宇宙の膨張速度に比べてそれに含まれる質量が小さく、永遠に膨張を続ける。

「平坦な宇宙」は、宇宙の膨張速度に比べてそれに含まれる質量が均衡しており、膨張速度を減じながら永遠に膨張を続けるが、ある一定の大きさ以上にはならず、また決して収縮には転じない。

そして、「おまけ」として「最近」の研究結果を併記し、それによれば「『宇宙は平坦』であることを示唆するものであったとさ。」というオチを付けている。

このタイトルに決めた理由はこのようなものであるらしい。

うーん!なんでこのタイトル僕選んだのかなぁ?とずーっと考えてた訳なんですが。何が言いたかったっていうと、この均衡状態…均衡は破られたんだと。っていう風に僕は言いたかったのかなぁと思う訳でありまして。「均衡は破られた!オレもオマエも!」って感じですね。要するにもうボチボチしてられんぞ!と。何て言うのかなぁ…「行動するべき時だ!」みたいな…わかんないですけども。そんな感じで「ビッグクランチ」つけた訳でありまして。

ORIGINAL LOVE presents BURST! #69

英語題

アルバムにはどこにも載っていないのだが、「プロモ」には英語題が載っている。

A1. Search A Woman
A2. Chikyugoma
A3. Love Drug
A4. Problem "The Sex Safari" is OK Now!
A5. Showman
B1. Doubleburger
B2. MP
B3. Killing
B4. Chocolate Gel
B5. Apotosis
B6. Chikyugoma Reprise
B7. R&R

これを見ると、タイトルに込めた意味も少し分かる気がする。A2はやっぱり「チキュウゴマ」という語感を大切にしているとか、A4はやっぱり矢沢永吉なんだなとか。


<<クイズ>> このアルバムにないもの

長くなりそうなシリーズなので、ここまで読んでくれている方のために、ちょっとお遊びのクイズを出します。

このアルバムには、普通のアルバムでは普通にあるものがありません。少なくともORIGINAL LOVEでは唯一の例です。他に自分が知っているのはThe Black Crowesの『サザン・ハーモニー』くらいです。もっと古いアルバムなら普通にあるかな、プレスリーくらいになると。

ヒントとしては、全曲の最後の部分を聴いてみるとわかります。

正解は第3回目の最後で。答えの分かる方は、コメント欄にどうぞ。


[追記]

コメント欄のバラくまさんのレヴューはこちら

http://barab8.jugem.jp/?eid=154